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新サレルノ養生訓 第10回 第1部4章 四肢の癒し

April 20, 2015 | 0 Comment

サレルノ養生訓とは

イタリア料理が好きな方や、地中海式ダイエットに関心をもたれる方の中には、「サレルノ養生訓」という本があることをお聞きになった方もいることでしょう。サレルノは南イタリア、カンパーニャ州にある都市で、ナポリの南東50キロに位置する有名な保養地です。学問の地としての歴史は古く、八世紀にはヨーロッパ最古の医学校が創設され、広く病気療養、保養の人を集めて「ヒポクラテスの町」とも称されました。イギリスやフランスの王族も治療のためにこの地を訪れたと言われます。

そのサレルノ医学校の創設後、十一世紀末には医学校の校長を中心に小さな衛生学の読本が作られました。それは全編ラテン語の詩の形をとって書かれ、食を中心に入浴法や睡眠など、生活習慣に関する注意事項を予防医学の見地から、一般大衆にもわかりやすく解説したものでした。

これが「サレルノ養生訓」です。現代イタリアでも、ある年齢以上の世代では、幼少時より親からそのラテン語詩を聞かされて育った人がいるとのことです。サレルノ養生訓の原典は、十四世紀スペインの医師•哲学者であるビッラノーバが注解した360行のラテン語文とされ、その後増補されて最終的に3520行まで膨らみ、またサレルノ医学校の名声が上がると共に、英語、イタリア語、フランス語など各国語に翻訳されて、広くヨーロッパ中に流布しました。

アッシジ:聖フランチェスコの被造物の賛歌が生まれた土地

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新訳サレルノ養生訓について

2001年に私が訳解した日本語版サレルノ養生訓(柴田書店刊)に用いたテキストは、1607年に刊行された英語版(通称ハリントン版、エリザベス一世に仕えた思想家ハリントン卿による英訳)です。この日本語版サレルノ養生訓は幸い多くの方に親しんでいただきましたが、再版のめどが立たず今日に至りました。そして数年前のこと、イタリア食文化に造詣が深い文流会長西村暢夫氏から、自身所持されるイタリア語版養生訓にハリントン英語版(2001年の日本語版)にない記載があることをお聞きし、併せてイタリア語版からの新訳を考えてはどうかという提案をいただきました。

英語版とイタリア語版の養生訓の記述に差異が生じたのは、養生訓成立に関わる複雑な事情があります。中世以降イタリア語を含めて主要な言語に訳された養生訓は、時代とともにラテン語原典の内容が膨らむことで異本や外典が生じ、次に各国語に翻訳される過程で、その国の歴史や時代背景からも影響を受けて訳者による異訳が生じたことで、各版の間で記述に違いが認められたと考えられます。ところで、ヨーロッパ食文化の二大潮流は、ギリシア•ローマ型とケルト•ゲルマン型に大別(M.モンタナーリ)され、このたびイタリア語翻訳者の森田朋子氏の協力を得て、ギリシア•ローマの流れを引くイタリア語版からの新訳が可能となり、出版前に当サイト上で少しずつ公開する運びとなりました。ハリントンの英語版との比較も興味深いところです。

今回訳者の森田氏は、新訳養生訓のテキストに現代イタリア語訳であるシンノ版(Mursia社刊)に採用されたラテン語(デ•レンツィ校訂によるラテン語完全版、3520行からなる)を用いています。1876年サレルノに生まれたアンドレア•シンノ博士は、博物学•農学を修め、科学教師や図書館員の職に就きながら、郷土史とサレルノ医学校の研究を行い、1941年サレルノ養生訓の注釈付き翻訳書を著しました。森田氏と私の間で協議し、今回の新訳にあたりシンノ氏の注解を参照しながらあくまでラテン語原典を尊重し、さらに時代とともに膨らみ豊かになった記載を盛り込んで、現代日本の読者により興味を持てる内容とすることを取り決めました。

以上、前置きが長くなりましたが、この11月から当サイト上に、新訳サレルノ養生訓を連載いたしますので、楽しみにして下さい。

ウェルネスササキクリニック 佐々木 巌

訳者略歴

森田朋子(もりた・ともこ)

京都市出身・在住。京都光華女子大学在学中、古典ラテン語を故・松平千秋教授に学ぶ。シエナ外国人大学にて第二段階ディプロマ(イタリア語・イタリア文学専攻)取得後、イタリア語翻訳・通訳業に従事。主訳書『イタリア旅行協会公式ガイド①~⑤巻』(NTT出版・共訳)。
解説者略歴

佐々木 巌(ささき・いわお)

ウェルネスササキクリニック院長、医学博士。専攻は内科学、呼吸器病学、予防医学。長年外来診療や講演活動を通じて地中海式ダイエットの啓蒙と普及にあたる。近著に地中海式ダイエットの魅力と歴史、医学的効果をわかりやすく解説した「美味しくて健康的で太らないダイエットなら地中海式」(大学教育出版)がある。

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第4章 四肢の癒し

  • 1 頭を休める

朝起きたら、両目と両手を、冷たい水で洗いなさい。

あちらこちらと軽く散歩し、軽く手足を伸ばすのです。

髪はくしけずり、歯は磨きます。

頭がすっきりとし、四肢が活気をもちます。

風呂は熱く。午餐が済んだら立ち上がり、立ったままでいるか

もしくは退席しなさい。体はできるだけ冷やさないように。

  • 2 目を休める

泉、鏡のような水面、草原 ― これらは目を楽にします。

朝には山に、昼には森に、夕方には泉に行きなさい。

夕べには浜辺に、朝には森に、通いましょう。

以下の色は特に目を休め、視力を回復させます:

空色、緑色、スミレ色、それに暗い色。

  • 3 手洗い

健康な人生を望むのなら、手をこまめに洗いなさい。

食後の手洗いには二重のご利益があります。

手は清潔になりますし、視力は鋭くなります。

手をまめに洗うのは眼のために健康的なことです。

  • 4 熱の仕組み

自然にとってはその固有の熱を、また人間にとっては栄養分を、

保持するのが有益なことです。

湿ったものが害を及ぼすことはありえません、

自然がその熱を享受できる限りは。

  • 5 元気が出るもの

賛歌は心を楽しませますし、たいていは喜びに満ちています。

女性たちよ、喜ばしいものをめで、いさかいの種は捨てなさい。

こまめに、新しくて見栄えのする服を着なさい。

また時には、ベッドで、心の広い女友達となりなさい。

料理は美味なものを、酒杯はゆっくりと時間をかけて、口にしなさい。

舌を甘やかすのはつつしみ、大食は軽蔑しなさい。

高潔な生活を心がけ、悪徳は避けなさい。

解説

今回の第4章1-3は旧版サレルノ養生訓にもある内容です。表題は「四肢の癒し」となっていますが、頭、目、手など人の身体の重要部分の機能を保つために、予防医学、衛生学的見地から生活上の注意事項が述べられます。起床したら冷たい水で洗顔をする、四肢を無理なくのばして軽い散歩をする、午餐はさっさと済ませて立ち上がる(季節のよい時期には食後のうたた寝がつきものですが、風邪のもと)など、こうしたことを一年通じて行うことで、生活によきリズムが生まれ、健康的な一日をすごすことができるのです。歯を磨く、手を洗うなどの行為は当たり前のように思えます。しかし口腔衛生や感染症などの知識がなかった時代に、予防医学の知識をもたない一般人には、決して当たり前のことではありませんでした。

目の健康と視力の保持には特別に重点が置かれます。朝起きたら山に行き、清らかですがすがしい大気に触れることで、身も心も引き締まり、一日の活力が生まれます。昼は仕事をひとやすみして森に出かけ、樹々の鮮やかな緑に目をとめることで目の疲れが癒されます。夕べに泉や浜辺を散策すれば、揺れ動く波と水辺を吹き抜ける涼風が、一日の労働で疲れた体と神経の緊張をほぐしてくれるでしょう。アッシジの聖フランチェスコは「被造物の賛歌」の中で、神の創造物である大地や水、植物を讃えて神に感謝しています。山歩きが趣味の筆者にとっても、養生訓にある通り、四季折々さまざまな機会に自然に親しむことが心身のリフレッシュに欠かせません。今日、雑踏と騒音に満ちた都会に住む読者の皆さんには、この部分は一読して望むべきもない生活処方のように思われるかもしれません。しかし時間が許す限り、昼休みは仕事の手を休め、休日はコンピュータやスマホから解放されて、身近にある自然の変遷に目をとめてみてください。これからしばらくは新緑の美しい季節が続きます。

さて、自然界のすべての生き物は熱(体温)をもち、体温が保たれていることが生きている証でもあります。人は食事から栄養を摂り体温を保持するために日々活動しなければなりません。そこで人を快活にし、楽しませ、元気にさせるものが必要で、それが恋愛(アモーレ)であり、美味しい食事やワイン(マンジャーレ)なのです。こうしてみると、新サレルノ養生訓はただやかましく節制を説いているだけではないことに気がつきます。キリスト教の宗教的規律が厳しかった時代に、健康のために節度は守りつつも物質的に潤いのある生活の必要性を説き、これはより古い時代に書かれた旧版の養生訓にはない特徴です。その理由についてイタリア語版編者のシンノ氏は、サレルノ医学校が、中世盛期にその名を取り巻いていた大いなる栄光のゆえに、健康によいと同時にもっとも純粋な形の物質主義に鼓舞されたかのごとき規範を書き記し広めることができ、また地上の豊かな富もそれが人間の慰めとも安心ともなり、寿命を延ばすことが可能なものとして正しく享受することができるよう教育した(森田訳)と考察しています。

※新サレルノ養生訓の無断転載及び引用を固く禁止します。

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